人工膝関節の手術は、膝痛が消失し歩行能力が改善するという利益がありますが、危険性(不利益・合併症)が伴うことも事実です。
不利益に対しては、それぞれの合併症に対する予防策をとることがとても大切です。
予防策を十分とることによって、手術の危険性はかなり軽減されます。
人工関節に置換された膝関節に細菌が進入する合併症で、その発生率は1〜 3%とされています。主に手術中に細菌が侵入したために発生する早期感染症と、術後、歯槽膿漏・難治性の痔・皮膚の傷などから二次的に細菌感染を起こす遅発感染症があります。糖尿病、関節リウマチで薬物治療中の方、ステロイド治療中の方は感染率が高くなります。
感染症が早期であれば、人工関節を温存する治療が可能ですが、多くの場合で再手術が必要となります。人工関節のサーフェスのみを抜去し関節内を洗浄する方法や、人工関節をすべて抜去し、抗生剤入りのセメントで仮の人工関節を作製し一時的に置換。その後、感染が沈静化したら再置換を行う手術方法があります。
手術はクリーンルームといわれる空気中の細菌が極力少なくなった手術室で行っております。手術後には予防的な抗生剤の投与を数日間おこない、手術の創は特殊なフィルムで覆う湿潤療法で創の管理を行っております。
術前には歯科受診を行っていただき、口腔内の衛生状態をチェックします。また、鼻腔内の細菌検査も行い抗生剤の効きにくい細菌が検出された場合には、術前に治療を行います。
退院後、皮膚の保湿は十分に行い、膝に異常を感じたら(痛み、腫れ、発熱)すぐに受診するようにして下さい。
当院での感染率は、1619関節中で14関節(0.86%)です。
手術に際し生体は出血に対する自己防御反応として血液が固まりやすい状態になります。また手術中、手術後には下肢をあまり動かすことが出来ないため、下肢の血流が停滞し下肢の静脈内に血栓(血液のかたまり)が出来ます。この状態を深部静脈血栓症といいます。さらにこの血栓がはがれ落ち、この血栓が血流に乗って移動し、肺の血管につまった状態を肺塞栓症といいます。肺塞栓症は命にかかわる重大な合併症となることがあります。肺塞栓症の予防のためには、深部静脈血栓症の予防が大切です。深部静脈血栓症は、人工膝関節の手術翌日には80%発生しているという報告もあります。
手術前検査で下肢のエコー検査を行い下肢の血流状態や血栓の有無を調べます。手術中や手術後には、血栓予防のストッキングや足に空気ポンプを装着します。また、血栓予防・血栓治療に適応のある薬を服用していただきます。術後には足先を積極的に動かすことも予防策となります。
当センターで肺塞栓症の発生は確認されておりません。
人工関節を長期使用していると、金属部品と骨との接着面にゆるみが生じ、膝痛を発生させ歩行障害が出現する事がありあます。ゆるみが進行する場合には人工関節を再度入れ直す必要もでてきます。
膝関節に負担の多すぎる作業や運動は控えるようにしましょう。体重のコントロールを行い、適度な運動を行い膝関節周囲の筋力低下を防ぐことも重要です。また骨粗鬆症のある方は、積極的に骨の治療を行いましょう。
当センターでは、ゆるみによる再置換術は1619関節中5関節(0.30%)です。
手術には出血という不利益が必ず生じ、出血量が多いと輸血の必要性もでてきます。
手術中は太ももに空気駆血帯(空気圧で血流を遮断する器械)を巻き手術していますので手術中の出血は100cc以下です。手術中には止血剤を点滴で投与し、手術後に膝関節内へも止血剤を注入し出血量の低減をおこなっています。
当センターでの術中出血量は平均42ml、輸血率は0.21%(1619関節、2013年以降、輸血症例はありません)と低率なため、術前の自己血採血は行っておりません。
退院後、しばらくすると痛みがなくなり、歩行能力も上がり外出する機会が増えるようになります。活動性が高まることに事によって転倒する可能性が増えます。転倒により人工関節周囲の骨折や膝蓋骨の骨折・脱臼を起こすことがあります。
下肢の筋力低下を防ぐために適度な運動は継続しましょう。歩行に不安がある方は杖を持ちましょう。骨粗鬆症の方は、骨の治療を受けましょう。
手術中に膝関節後方の神経や血管に傷がつき出血や神経麻痺が起こることがあります。手術中にこのような合併症が起こることは極まれです。また術後の安静時に腓骨小頭部(膝の後方外側)が圧迫されることによって腓骨神経麻痺がおこり足首や足先の動きが悪くなります。
手術後は疼痛の軽減策として膝の下にクッションを入れ、膝関節を曲げた状態にしておく方が多いです。この時に膝の後方にある腓骨小頭を硬いクッションや冷却目的で入れる保冷剤で長時間圧迫しないようにしましょう。
入院による生活環境の変化のため、ご高齢の方は術後に一時的に不穏な状態となることがありますが、数日で改善します。
また、麻酔や手術による体へのストレスは、術中、術後に予期せぬ合併症が発生することがあります。
いかなる合併症が発症しても、当院では総合病院というメリットを最大限に発揮し、他科の先生と連携し最善の治療を行っております。
ご心配な方は、いつでもご相談下さい。